『ドラマ』について






ダヴィンチを読んだ。
『ドラマ』。彗星のような曲だと思う。いのちを削りからだを燃やして光る。日常/非日常の分離帯の彼方に疾走して爆ぜていく星。それとも気象衛星の標本か。しずかな夜の街にぼんやりと点滅する信号。
彼にとって青は熱い色だ。高温で爆ぜる燃料。火傷の痕を撫でる。刻まれる日記。暴かれたこころで活字と対峙するとき その鋭さに剥かれる胸のいくつもの層が血を流している。(ぼたぼたとことばがおちる。)それらは空洞化したからだに、肌いろの薄い皮膚を染めながら内側に留まる。からだの甘やかな流線が融解する。わたしはそれとまったく酷似した感覚をおぼえる:戦って描かれた少女たちの絵を知っている。
右に162°笑うと君の均衡は保たれる。背中に刺さる十字架を引き抜く両手を渇望している。少年は失った核を求めて旅をする。ひとりの少年の根源的な悲哀。喪失したものは、かつてこのからだが世界と一体をなしていたあの祝福すべき幼年性。
大きく息を吸う。ガソリンの匂いがする。空っぽのからだが求めている。掻き毟られた胸の刺青が腫れている。まっすぐに絶叫した喉は渇いている。腹が空いた。炭素。氷。メタン。ナトリウム。金平糖を舐める。青いままで大人になった。嘘みたいな幻想の 夢みたいな虚構に包まれた時間の上で。
何度も地図に手をかける。つめたい銀の針先で刺し続けた目的地。望遠鏡の倍率は上がり続ける。自転は加速する。夜の向こう側に誰かが待っている。顔は知らない。
「2061年までその場所でダイヤルを回し続けなさい」
拒まれた回答は待たれることがない。諦めと覚悟を含んで濡れた瞳を覗き込む。宇宙がある。傷口みたいな湿度の瞼が開かれている。閉じる。祈るように閉じられたいのちの接合面。増光した彗星。3時間後に約束された別れ。あの日ピンク色に染まった海原のひかり。付けられなかった青色の光源。
原石は洞窟にうずくまっている。わたしたちはそれを傷つける。輝く宝石は復讐を計画する。乱反射するひかりはわたしたちの水晶体を貫く。痛みを伴った破片が眼球を素早く通り抜ける。その彗星は身体で知っている。空が青いこと。海が青いこと。真っ白な肌に透きとおる静脈の穏やかな熱さ。血潮のうつくしい青さ。そういう色のことを身をもって知っている。みずいろのギターを抱えて。マニーとメランコリーの正弦曲線。規則正しい呼吸。鬱屈と心象に灯る青白い炎のゆらぎは次第にエネルギーの渦となって爆発する。
十字架が引き摺ってきた誤解や期待や物語で重装備した足取り。それは戦士のような面持ちで。人質にとっていた執着ごとすべてを還すために。とうといきもちで。駱駝はみんな眠っている。月の砂漠。治らない傷にアルコールを吹きかける。尖った破片を踏む足裏の、一歩ずつが、眩く、発光する。